練習やトレーニングの前に、まずは感覚を研ぎ澄ますべき。
パフォーマンスアップに欠かせない、「自己受容感覚」の向上とは

齊藤 邦秀
パーソナルトレーナー

トレーニングを重ねても、一向にパフォーマンスが向上しないー。そんな悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。なぜ“伸び悩む”のか。そのカギは「自己受容感覚(プロプリオセプション)」にあるかもしれません。

「トレーニングの前に、まずは自己受容感覚を活性化させることが、鍛える上での“正しい順序”です。そしてそれは、ケガの予防にもなります」。そう話すのは、陸上の日本トップ選手などを数多く指導するパーソナルトレーナーの齊藤邦秀氏。もともと、医療リハビリの分野で重視された自己受容感覚。一体どのようなものなのでしょうか。齊藤氏に聞きました。

全身にあるセンサーが「自己受容感覚」を生む

ー自己受容感覚とは、どんなものなのでしょうか。

ひと言でいえば、自分の身体におけるそれぞれの筋肉や関節が今どのような状態になっているか、それを把握する感覚です。
私たちは身体中のさまざまな感覚を認識しますが、その情報は、それぞれの筋や腱、関節など、至るところに張り巡らされたセンサーが各部位の状態・動きを捉えて脳に送ってくるものです。それらの情報をもとに、脳では作戦を練って適切な動き方を決定し、特定の部位に対して「こう動け」と命令が出て、筋や骨が指示通りの動きをしようとします。
このセンサーのことを「自己受容器」といい、それにもとづく感覚を自己受容感覚と呼びます。たとえば、今自分の背骨がまっすぐ伸びているか、どちらにどのくらい曲がっているか。これらは、背骨の周りにある自己受容器が受けた情報をもとに、脳や脊髄で状態を判断しています。“位置”の認識だけでなく、ストレッチをした際に「右のモモ裏が張っている」と“筋肉の状態”を認識するのも、自己受容感覚の働きです。

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ー全身の至るところに張り巡らされている感覚ということですよね。

はい。片足立ちの状態が分かりやすいかもしれません。片足立ちで安定しないのは、脚の筋だけの問題ではありません。通常、片足立ちになると、身体は生体防御で安定させようと、足裏の力の入れ方を細かく変えて、重心をコントロールし、微調整します。このとき、足裏の自己受容器が「今どの部分に重心がかかっているか」を素早く察知できれば、微調整して安定を保てますが、自己受容器の働きが鈍いと微調整しにくく、バランスが崩れるのです。
自己受容感覚の概念は、もともとリハビリで重視されてきました。通常、リハビリでは該当部位の「可動域」と「筋出力」を戻すことに注力しますが、本来は自己受容感覚の向上まで行うのが正しい形です。自己受容感覚は、鍛えないと向上しませんから。

ーただ、あまりそういったリハビリの話は聞きませんよね。

今は保険制度の適用期間が短いので、自己受容感覚の向上までカバーしにくいのが現実です。ですが、元来は大切なものですし、あらゆるスポーツにおいて、自己受容感覚を研ぎ澄ますことは不可欠です。
トレーニングや体の動きを意識する人は多いですが、まずこのセンサーを研ぎ澄ませないと、伸び悩んだり、ケガにつながったりします。そこを目覚めさせた上でトレーニングや体の動きを考えるのが「正しい順序」です。

伸び悩む理由は、思い通りに筋肉を動かせないから?

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ーなぜ自己受容感覚を研ぎ澄ませないと伸び悩むケースが出てくるのでしょうか。

いくら筋力がつき、さらに動きを研究しても、思い通りに身体の筋肉・部位を動かせないないからです。
ランニングのフォームを考えてみましょう。通常、ランニングは腕そのものを振るのではなく、胸郭の上部全体をうねるように動かして、その連動で腕が自然に振れるのが理想のフォームです。胸郭が捻じれると骨盤も連動して動くので、下半身まで一連の動きになり、バテにくくなるからです。
ですが、胸郭まわりの自己受容感覚が鈍っていると、そもそも胸郭をうねらせる動きができません。動かそうにも、胸郭の感覚が乏しいからです。これはどんなスポーツでも同様で、野球のバッターなら、いくら鍛えてパワーアップしても、バットコントロールの微調整ができなければボールを捉えられません。つまり、自己受容感覚を軽視してトレーニングをすれば、車体は大きく、馬力もあるけれど、小回りの利かない“アメ車”のようになってしまいます。
プロのアスリートはその感覚を研ぎ澄ましていて、あくまで例えですが「筋繊維一本一本まで感覚がある」と表現する人もいます。

ー「ケガにつながる」という言葉の意味も知りたいです。

自己受容感覚が研ぎ澄まされると、各部位の筋肉の状態まで感じ取れるようになってきます。すると、前屈をしただけでも、頭からつま先まで、筋肉の伸び具合や状態を一箇所ずつ把握できるんですね。「今日はもも裏が張ってるな」とか、その中でも「もも裏の上部が硬いな」とか。
毎日同じストレッチをすれば、「今日はいつもよりこの筋肉が硬い」というのを細かく把握できるようになります。つまり、自分で体の評価ができるということ。その結果、「今日はここの筋肉にハリがあるから、この動きは抑えめにしよう」と予防できます。逆に感覚が落ちている人は、筋肉の異常に気づかず、ケガに発展するケースが増えてしまいます。

ー自己受容感覚の大切さがわかりました。ここで気になるのは「自己受容感覚の高め方」ですよね。ぜひ次回の後編で伺えればと思います。

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齊藤 邦秀さいとう くにひで

パーソナルトレーナー

ウェルネススポーツ代表取締役。Running Fitness Labo.代表。学生時代からスキーや陸上などを行うが、高校時代に大ケガをし、選手の道を断念。大学時代にスポーツ医科学分野を学び、卒業後はスポーツトレーナーへ。スポーツ選手はもちろん、現在は「ライフスタイルコーチング」として、一般人の健康づくりなど幅広く指導する。